「真夏の茶色い戦争」

「真夏の茶色い戦争」

「いいか、まず、安全レバーを折る」
「はい、まず、安全レバーを折る」
「パキッと音がする」
「はい、パキッと音がする」
「小型には1から2秒、大型には6から8秒」
「小型には1から2秒、大型には6から8秒」
「死んでもノズルを離すべからず」
「はいっ、死んでもノズルを離しません」

大将の声にあわせて僕たち隊員4人が復唱する。

右手には「アース製薬ゴキジェットプロ」左手には「ほうき」と「チリトリ」

「進めー」
「おおおおおおーーー」

「床部隊」と「壁部隊」の二手に分かれて壮絶な闘いが始まった。

「うおー、壁が動いている」
壁部隊の一人が悲鳴を上げる。
茶色い壁はクロスの色ではない。
テカテカ光り、かつうごめいている。

「いち、にい、さん、しい、ごー、ろく」
ざわざわと揺れる壁のその中心に「アース製薬ゴキジェットプロ」を遠隔射撃
直接砲撃をあびた大型の敵がぼたぼたと床に落ちてゆく。
砲撃を受けたその部分だけが丸く白くなり、本物のクロスが見えてくる。
直接砲撃を受けなかった敵は大半が逃げ惑うが、10匹ほどが空中に舞い上がり自爆攻撃を開始
そのうちの数匹が「バシッバシッ」と壁部隊のゴーグルやら服に体当たりを仕掛けてくる。
「ばかもん、ひるむな、空中戦には『便利なすき間ノズル』を使えと言っただろう」
壁部隊の隊員は慌てて「便利なすき間ノズル」をゴキジェットプロに装着
空飛ぶ敵めがけて「シュッ」「シュッ」と連射
しかし、慣れない空中戦ではなかなか敵に当たらない。
「いいか、敵は飛ぶのは速い。しかし、大きく羽を開くのでターゲットも大きくなる。狙撃のコツは進路一歩手前の空中を目掛けてすばやく打ち込め」
大将が玄関先から首だけを出してそう大声で怒鳴る。
「ラジャー」
「シュッ」
「ボタッ」
「隊長、やりました。一機撃沈」
「いいぞー、その調子だ」

さあ、僕たち「床部隊」の出陣だ。
「せーの」の掛け声とともに、何重にも積み重なった汚れた衣服の一枚をひっぺがすと、それはさながら「茶色い打ち上げ花火」
衣服の下に潜んでいた敵の塊が、ざざざと広がりぱーっと散ってゆく。
「うわっ」と飛び上がる床部隊
次の衣服をはがすと、またしてもざざざと円が広がりぱーっと散ってゆく。
薄汚れた衣服の上に咲く、茶色い打ち上げ花火
それはテカテカ光った三尺玉
まさに緊張の夏

「こらー、見とれるな」
「はっ」
大将の怒鳴り声で我に返る僕
「おらー」
まだ引っぺがした衣服にしがみついている敵もろとも、ビニール袋にがばっと突っ込む。
袋の口をしばる。
持ち上げる。
中を見る。
敵が遠心力に負けて袋の下にぽたぽた落ちてゆく。
ビニール袋の中で茶色い線香花火の世界が始まる。
ぽつっと落ちては息絶えて行く果敢に闘った敵兵たち。

そして、フローリングが、畳が全面に現れたところでシンガリ登場
「ええか、ワシは逃げ隠れしとったんと違うで、この時を待っとったんや」
顔には旧日本軍を思わせるガスマスク
手には大型の手榴弾を思わせる噴霧器
「猛毒ガスの出番や」
隊員全員、部屋から退避
その前を大将がのっしのっしと部屋に進む。
「ええか、しばしの別れや」
と大将のOKポーズとともに締められる鉄のドア
真夏の日差しの中、ぽたぽたと汗を噴出しながら玄関先で待機する僕ら隊員
時折、ドアごしに
「ジュボッ ジュボッ」と大将が毒ガスをまく音が聞こえてくる。

「終わったで。ワシらの勝利や」
「やったー、やったー」
「あとは、明日、掃除や掃除」

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<実際に大将が使った噴霧器とガスマスク>

そして、翌朝
ドアを開けた隊員が悲鳴を上げる。
「床一面、真茶色、です」
大将の毒ガスに倒れた敵の哀れな姿
その数、一万はくだらないだろう。
「ぐっしゃ」
「こら、踏むな、敵の油が回りに飛び散る」


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プロフィール

なわない 【おとなの絵本】

Author:なわない 【おとなの絵本】

スピーチライターやってます。

「うらない」じゃなくて、「なわない」
うらないとかに頼らずに、自分でなわなう。
うらなわないから、なわない。

おとなの絵本の作者です。





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