「月に三日のFMリスナー」

月に三日のFMリスナー

僕は普段、仕事中は音楽をかけない。音楽に負けるからだ。
「耳ダンボ」「お手て、動いてません」状態になるからだ。
そんな僕の事務所に、デスクワーク以外の仕事が入ってきた。
「とても簡単で、そこそこのお金になる作業」との事だったので、半年前から引き受けた。
仕事の量は毎月三日分だけ。

初めての月、いくら「とても簡単」と言われても、さすがに段取りを覚えるのに苦労をした。
次の月、何とか作業手順を覚えたので、はたと思った。
「音楽をかけてみよう……」
おそるおそるCDの電源を入れてみた。
「耳ダンボ」でも、何と「お手てが動く」ではないか!
こりゃ、ありがたい。
好きな音楽を聴きながら、お金をもらえるとは……。

毎月の作業の三日が、とても楽しみになった。
でも、さすがに事務所に置いてあるCDは聞き飽きてきた。
FMをかけてみた。
DJのターザン山下が地元のあほな話題を喋っている。
僕が大笑いをしていると、とっくに忘れていた懐かしいブリティッシュロックが流れてきた。
「お手て」をてきぱきと動かしながら僕は一人、つぶやいた。
「FM最高!」
つまらない話しもあれば、聞きたくもない曲も流れてくる。
でも、普段、事務所で一人の僕にはそれも全部、新鮮な息吹みたいだ。
夜、遅くまでボリュームいっぱいにして聴き続けた。
(もちろん、お手てはてきぱきだ)

ところが、その三日が終わった後の寂しさは強烈だった。
いつもの様にまったく無音の事務所。
作業用の机から移って、いつものパソコンの前に座り、手前のラジカセを眺める。
「小さい音だったら大丈夫かも……」と、ボリュームを絞ってFMをかけてみる。
やっぱりダメだ。
小さい音を探して、耳はよけいに大きなダンボになる。
もちろん「お手ては動かない」

そうこうして、無音二十七日、FM三日の数ヶ月が過ぎて、さっき、6回目の作業が終わった。
もちろん、ラジカセのスイッチは切った。
でも、以前の様に無音になってもそんなに寂しくはなくなった。

ラジカセの向こうには、大好きな曲が流れていて、あほな話しをするDJが喋っていて、そして、僕みたいにげらげら笑ったり、うんうん、この曲はヒットするだろうぜ、などと考えているリスナーがいるんだ、そう思うと、この無音の事務所は無音だけど、とてもにぎやかな無音だという気がしてきたからだ。

来月も月の半ばに三日間。
楽しみだな。
でも、こうも、思う。
三日間位がちょうどいいんだろうな、とも……。






コメント

こんばんは。
楽しい事でも毎日の仕事となれば大変でしょうが、3日間のお仕事は次を待つ楽しみが有りますね(^^)
ところで、そこそこのお金ってのは良いですねぇ(^○^)

「いやん、そこそこ」ではありません。
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まとめtyaiました【月に三日のFMリスナー】

月に三日のFMリスナー僕は普段、仕事中は音楽をかけない。音楽に負けるからだ。「耳ダンボ」「お手て、動いてません」状態になるからだ。そんな僕の事務所に、デスクワーク以外の仕事が入ってきた。「とても簡単で、そこそこのお金になる作業」との事だったので、半年前か...

プロフィール

なわない 【おとなの絵本】

Author:なわない 【おとなの絵本】

スピーチライターやってます。

「うらない」じゃなくて、「なわない」
うらないとかに頼らずに、自分でなわなう。
うらなわないから、なわない。

おとなの絵本の作者です。





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