「便利屋さんのお仕事あれやこれや」老後か……

「老後か……」

便利屋の大将が電話に出られない時は、僕の事務所に問い合わせが転送で流れてくる。
もちろん、すぐに大将に電話の内容を報告するのだが、現場の仕事が忙しいから僕に転送をするわけで、僕の電話にもなかなか出ない。

「ねじを一個、しめて欲しいだけなんです。今日中に」
「ねじ、一本だけ?」
電話の主はかなりの年配の様だ。
用件は
「古い文化住宅をたくさん持っている。その中の一軒に明日、老夫婦が入居する」
「昨日、部屋の確認に行ったら玄関のドアのねじがゆるんでいた」
「高い所なので、背が届かないし足が悪いので椅子に乗ってねじを締めるのは怖い」
なるほど、年配の大家さんか。
確かに年寄りには危険な作業だ。
でも、ねじ一本の仕事とは……。

いつもの様に便利屋の大将にTEL。
しかし、出ない。
そう言えば、かなり大きな仕事が続いていると言っていた。
昼に「ねじ一本」の電話がかかってきてから、4、5回大将にかけたが出ない。
夕方近くなってきた。

案の定、催促の電話がかかってきた。
「今日中には無理ですかねえ」
電話口の年寄りは不安げに言う。
ねじ一本なら、僕でも出来るだろう。
えーい!行ってまえ!
「今からお伺いします」
「じゃ、タクシー呼びますから待ってて下さいね」
「タクシー?」

電話口のお年寄りはそう言って、僕の事務所の住所を詳しく聞く。
タクシーでお迎えに来てくれると言うのだ。

しばらくして、僕の事務所の前にタクシーが止まった。
上品そうな老婆だ。
杖を持っている。
「こんな体ですので、歩くのが辛くて。どうせタクシーに乗って行くんですから一緒に行った方があなたも道に迷わないでしょ」

僕の事務所から1,000円ほどの距離でタクシーは止まった。
確かに古い文化住宅がずらっと並んでいた。
「これ、全部、お母さんの持ち物ですか」
「ええ、これ以外にも○○と○○にも」
明日から老夫婦が入る文化住宅に入った。
古いくて暗い部屋だった。
「普段なら、こんな用事もいつもの大工さんに頼むんですが、どうしても今日は都合が悪いと言われたのよ」
「お風呂も一応ついてるんですね」
「そうよ、これでたったの4万円なのよ」

「ねじ締め」の用事は一瞬で終わった。
「私はこの近くの商店街で、少しお買い物をしますから」
と、その年配の大家さんは電話で話した料金を僕に手渡した。
そして、
「これは帰りのタクシー代」
と、余分に2,000円を上乗せしてくれた。
合計すると、その辺りで働く日当以上だ。
ねじ一本締めただけで!

4万円の家賃×30軒=120万円
安泰だろうな、あの大家さんは。
かたや、あの古い文化住宅に4万円払って入る老夫婦。
「老後かあ」
僕はもらった2,000円をタクシー代に使わず、来た道を歩いて帰る事にした。



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「老後か……」便利屋の大将が電話に出られない時は、僕の事務所に問い合わせが転送で流れてくる。もちろん、すぐに大将に電話の内容を報告するのだが、現場の仕事が忙しいから僕に転送をするわけで、僕の電話にもなかなか出ない。「ねじを一個、しめて欲しいだけなんです...

プロフィール

なわない 【おとなの絵本】

Author:なわない 【おとなの絵本】

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「うらない」じゃなくて、「なわない」
うらないとかに頼らずに、自分でなわなう。
うらなわないから、なわない。

おとなの絵本の作者です。





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