「おじいちゃんの人生をゼロにする仕事」

「おじいちゃんの人生をゼロにする仕事」
便利屋さんのお仕事あれやこれや(番外編)

四つ目の洋服ダンスを開けて、僕は理解して絶句してその場にしゃがみこんだ。
さっき、車椅子に乗せられて通り過ぎたうつろな目をしたおじいちゃん。
あのおじいちゃんの人生を僕は今、ゼロにしている。

「おじいさんはもうこの家には帰ってくる事はないと思うんです」と、打ち合わせのケアマネージャーが淡々と説明をする。
「家の中の物をすべて出して、ゼロの状態にしてきれいに掃除をして下さい。ご家族からのご依頼です」
僕たちの仕事はそう言う事だ。
全部ゼロにする事。
大将はじめ5人でゼロにする作業にかかる。
体力のない僕は、洋服ダンスの中身の服を全部、ビニール袋に入れる係を任された。
それにしても広い家だ。
そして、おじいちゃん一人暮らしだった割に洋服ダンスが多い。
いち、に、さん、し、五竿もある。
僕はまず一番端のタンスを開ける。
と、おいおい、懐かしいVANのジャケットやトレーナー、そしてアメリカ製だろうミッキーマウスがプリントされた年代物のTシャツ。
これって一体、何年前のものだ?
アイビーが好みだったと見えて、Vネックのセーターなどがぎっしりと吊るされている。

続いて次のタンス。
今度はスーツがずらり。
結構、タイトなスーツが多い。
ただ、あまり上物はなさそうだ。
僕は次々とそれらのスーツを青いビニール袋に押し込んでいく。
続いて三つ目のタンス。
開けると唸った。
こっちはかなり高級なスーツがずらり。
おしゃれ音痴の僕でもアルマーニぐらいわかる。
ネクタイは50本ほど。
どれもかなりの高級品だ。
僕はそれらを無造作につかんではゴミ袋に入れる。
続いて四つ目のタンス。
さてさてここにはどんな高級なスーツが入っているんだろう?
と、空けてみると中身は作業服
それもペラペラで汚れがついたまま。
僕はもう一度、一つ目からの中身を思い出す。
一つ目は大昔のアイビールック
二つ目は安物のスーツ
三つ目はブランドのスーツ
四つ目は薄汚れた作業着
このタンスたちは、おじいちゃんの人生そのもの…………。

僕は少しのあいだ、しゃがみこんでおじいちゃんの人生を思った。
このマンションが建って40年がたつと言う。
おじいちゃんは新築からここに住んでいたそうだ。
オシャレな若い頃から仕事が順調に行って、どんどんといいスーツを買って、定年退職をしてアルバイトをして、そして身体を壊して半分寝たきりの生活。
僕は最後のタンスを開ける。
やはり予想通り、汚れた下着やパジャマがギッシリと詰まっていた。
僕は最後のおじいちゃんの人生をゴミ袋に詰めていく。
僕は今、おじいちゃんの人生をゼロにしている。

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なわない 【おとなの絵本】

Author:なわない 【おとなの絵本】

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「うらない」じゃなくて、「なわない」
うらないとかに頼らずに、自分でなわなう。
うらなわないから、なわない。

おとなの絵本の作者です。





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