便利屋さんのお仕事あれやこれやシリーズ「おめーの分まで酔っ払ってやらあ」

便利屋さんのお仕事あれやこれやシリーズ
「おめーの分まで酔っ払ってやらあ」


「引越しの手伝いをしてほしいんですけど」
との依頼の電話。
しかし、正確には
「ひっこしろれるらいをじでほしいんですけろ」
そして、
「荷物は全部、実家に送りました。あとは洗濯物をたたんでダンボールに詰めるだけです」
これは
「にもつはぜんぶじっかぎおぐりばしだ。あろはせんらくものをららんれらんぼーるにるめるだけれーすう」

約束のマンションの玄関でチャイムを押すと、まるで安っぽいドラマの様にウイスキーのビンをぶら下げた男。
ふらふらと奥の部屋に入ると洗濯物の山。
「これをたたんでくらさい」
そして、定番の「ひっく」

「便利屋さん手際がいいいれすれえ。こんな仕事、よくやるんれすかあ」
「こんな仕事は初めてです」
「本当は男のパンツをさわるのはいやれしょ、あはは」
「ええ、その通りです」
「なるほろなるほろ、そうやってたたむんら」
せっせと下着をダンボールに詰める僕の前にしゃがみこんで男は喋り続ける。
「あの、おしゃべりに付き合ってたら約束の時間が過ぎちゃいますから……」
僕は男の酒臭い息をかわしながらそう言う。
「ああ、ごめんらさい。追加料金だしますからもっとゆっくりしてくらさい」
と、まだ作業を始めたばかりなのに男は僕に一万円札を握らせる。
「こんなにいらないです!」と僕
「いいからいいから、そのかわりにお話にもづぎあっれくらさい」
「ええ、まあ……」

「僕、明日から、施設に入院するんれす。もちろんこれれす」
と、男はウイスキーのビンを指差す。
「当分、飲めないと思うろ、ついつい。あは、あはは」
「こんろは長いとおもうんれす」
「もうあとがないのはわかってるんれす」
ああ、だから家具は実家にすべて送って、明日から入る施設にこの下着を持っていくのか……。
「こんろはがんばるんれす。ぜったいにがんばるんれす」

僕は、この男が明日の朝、施設でこのダンボールを空けるのを想像する。
僕のこの仕事が、この男のやり直し生活の第一歩となるのか……。
そう思うと、自分が出来る最高の丁寧さでダンボールに男物の下着をたたんでは詰めた。

「ありがとうごらいます。ありがとうごらいます」
男はほぼ空になったウイスキーのビンをゆらゆらさせながら僕を送り出す。

さて、問題はこのポケットの中に入っている一万円だ。
いろいろ考えた結果、やはりスーパーに行って、最も安いウイスキーを一万円分買った。
まあ、こんな使い方が一番だろうな。

「おっさん、明日からのおめーの分まで、たらふく酔っ払ってやるからな」








<おまけ>
あれから半年。
ふと、隣の部屋を見ると、僕の下着をせっせとたたんでいる便利屋がいた。


プロフィール

なわない 【おとなの絵本】

Author:なわない 【おとなの絵本】

スピーチライターやってます。

「うらない」じゃなくて、「なわない」
うらないとかに頼らずに、自分でなわなう。
うらなわないから、なわない。

おとなの絵本の作者です。





にほんブログ村 動画紹介ブログへ


★★★★★★★★★★★★★

リンク